今回のテーマは、「借地借家法」である。
令和7年度 マンション管理士試験
〔問 17〕 甲マンションの 301 号室を所有するAが、令和3年3月1日、Bに対して期間を3年間、賃料を月額 10 万円として同室を貸し渡し、賃貸の2年後にAがBに対して賃料が不相当となったとして同 12 万円に増額する旨通知した場合に関する次の記述のうち、借地借家法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
1 AB間の賃貸借契約に賃貸期間中は賃料を増額しない旨の特約があれば、Aは、賃料が不相当となった場合でもその増額を請求することができない。
2 Aは、増額通知がBに到達した日より前の期間については、当該通知によって賃料の増額を請求することができない。
3 賃料の増額についてAB間に協議が調わないときは、Bは、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める賃料をAに支払うことをもって足りる。
4 賃料の増額を正当とする裁判が確定した場合において、既にBが支払った額に不足があるときは、Bは、不足額に年3%の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
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正解は4です。
【前提知識】
借地借家法
それでは、各肢を検討していこう。
1 正しい。
借地借家法32条1項(借賃増減請求権)に基づき、土地や建物の賃料が不相当となった場合には、将来に向かって増減を請求することができる。
ただし、この規定には以下のルールがある。
不増額特約(1項ただし書)
貸主(A)が自らの権利を放棄する内容であり、借主(B)にとって有利なものであるため、有効である。したがって、特約期間中はAから増額を請求することはできない。
不減額特約
こちらは借主にとって不利な特約となるため、借地借家法の借主保護の観点により無効となる。つまり、たとえ「減額しない」という約束があっても、借主は減額を請求することができる。
(借賃増減請求権)
第32条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
借地借家法(e-Gov法令検索)
2 正しい。
借賃増減請求権(借地借家法32条)のポイント
1. 効力が発生するタイミング
借賃増額請求権は、「増額する」という意思表示が相手方に到達した時点から将来に向かって効力が発生する。
- 将来効
通知が届いた後の賃料に対して効力が及ぶ。 - 遡及効の否定
通知をする前の分まで遡って請求することはできない。
2. 意思表示の到達
民法の原則(到達主義)により、増額の通知が借主(B)に到達した日から、その請求が相当と認められる限度で増額後の賃料が発生する。
まとめ
通知前
増額請求はできない。
通知後(到達後)
増額の効果が発生する(ただし、金額に争いがある場合は、裁判で確定するまでは借主(B)は「相当と認める額」を支払えば足りる)。
※実務上は従前の賃料額を『相当と認める額』として支払うことが多い。
3 正しい。
賃料の増額請求に対して借主が納得していない場合、貸主の一方的な額を支払わなければならないとすると、借主の生活などが圧迫されるため、借地借家法32条2項で以下の通り定められている。
裁判確定までの支払いルール
増額について協議(話し合い)がまとまらない場合、以下のような流れになる。
- 借主(B)の義務
増額を正当とする裁判が確定するまでは、Bは自分が「相当と認める額」(通常はこれまでの賃料である10万円)を支払えば、債務不履行(家賃滞納)にはならない。※実務上は従前の賃料額を『相当と認める額』として支払うことが多い。 - 貸主(A)の受領
Aが「12万円でないと受け取らない」と拒否した場合、Bは「相当と認める額」を供託することで、契約解除を免れることができる。
裁判確定後の清算
最終的に裁判で「月額11万円が妥当」や「12万円が妥当」と確定した場合は、以下の調整が行われる。
- 不足分の支払い
Bは、すでに支払った額と確定した額との差額を支払わなければならない。 - 利息の付加
その際、単に差額を払うだけでなく、年1割(10%)の利息を付けてAに支払う必要がある。
4 誤り。
借地借家法32条2項により、正当な賃料額が確定した際に不足分を支払う場合の利息は、年1割(10%)と定められている。
なぜ「10%」なのか
民法の法定利率(現在は年3%)よりもかなり高く設定されているのには、理由がある。もし利息が低ければ、借主は「とりあえず裁判が終わるまで安い賃料のまま手元にお金を置いておいた方が得だ」と考え、わざと裁判を長引かせる可能性があるからである。そのため、支払いを遅らせることへのペナルティとして、高い利率が設定されている。
なお、民法の法定利率は改正により3年ごとの見直し制度が導入され、現在は年3%とされている。最新の法務省告示によれば、2026年4月1日以降もこの率は維持され、少なくとも2029年3月31日までは年3%が適用される。他方、借地借家法32条2項における年1割の利率は、この法定利率とは独立した特則として位置づけられる。
(解法のポイント)
この「年10%」という数字は、賃料の減額請求が認められた場合(貸主が借主へ過払い分を返すとき)も同様に「年10%」となる。セットで覚えておこう


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